「舎利子(しやりし)。」
読み下し文
「舎利子よ、」
現代語訳
「シャーリプトラよ、」
これは、人名で、釈尊の高足の弟子のひとりのことです。智慧第一と謳われた人です。
「色不異空(しきふいくう)。」
読み下し文
「色は空に異ならず。」
現代語訳
「この世において、物質世界には実体がないのであり、」
ここで、色は「壊れるもの」「変化するもの」を意味します。古来、変壊(へんね)・質礙(ぜつげ)の義ありといわれています。変壊とは、絶えず変化して一時も恒常でないということ。質礙とは物質が同時に同じところを占有できないこと。
これは、ずばり、「存在」に関する深い思索に満ちた言葉です。「色は空に異ならず」。何とも深い言葉です。
確かに私の「存在」、それをハイデガー風に言い換えますと「現存在」は、二つと同じ場所に存在することは不可能です。これが存在には決定的であって、それ故に、他者は現存在にとって超越者としてこの「世界」に現われるのです。そして、物質もまた、現存在と同様に己に関して深い思索をしていると考えると、現存在と物質を分ける根拠はなくなります。